|
自分の左腕が地面に落ちていることに苫米地は気づく。痛いとか、苦しいとか、そのような言葉も出てこない。ただ、何か、荒れ狂ったものが頭の中を奔流となって駆け巡っているだけだ。 しかし―― 死んでない。 細い糸のようなものが体にまきついていた。数瞬の後、それが引かれれば自分の体はバラバラになっていたはずなのに。死んでいたはずなのに。 顔を上げた苫米地の目に、男の後ろ姿が映る。 振り向きもせず、静かに前方を見つめている姿。 右手には白刃。 苫米地を窮地から救ったそれは、月光を反射し白く光っていた。 「止血してやれ」 端的な言葉を残し、前田智徳は疾走した。 地に伏した側に誰かが駆け寄って来るのが分かる。末永真史。ぐつぐつと沸き立ちそうな頭の中で、その名前が思い出せたことに苫米地は驚いた。布で腕の付け根を一生懸命に縛っている後輩を見て、そして、その布が一瞬に赤く染まりポトポトと自分の体から流れ出したものが地に吸い込まれていくのを見て、彼は理解した。 即死じゃなかっただけか。 体を起こそうとして、グラリとゆれる。血がなくなって体重は軽くなっているはずなのに、なぜこんなに重く感じるのだろうか。不条理だ、と苫米地は憤慨する。 「だ、ダメですって、じっとしてください」 「二人は?」 「移動したみたいです」末永は森の中へ目を向けながら言う。「苫米地さん、やはりあれは」 「ああ、緒方さんだった」 愕然とする末永を見ながら、苫米地は続けた。 「でも、あれは緒方さんと言えるのかな」 「……え?」 「確かに姿形は緒方さんだった。でもあんな」苫米地はどんどんと重くなる体を無理矢理に起こし、続ける。「あんなことが、人間に可能なんだろうか」 六人。 一人で六人の男を惨殺する。そんなことが可能なのだろうか。漫画なら二、三十人を相手どっても主人公なら倒せるかもしれないがこれは現実なのだ。実際には二人を相手にするのも難しいはず。三人であれば、特殊な状況下に誘導するなどしなければ不可能であろう。 違和感があった。 ただ殴りつけるだけの金属バットならば、すぐに使える。オートマ拳銃であっても、曖昧であれ使用法は分かるであろう。しかし、緒方が使っていた武器は特殊過ぎる。訓練を受けた者、その扱いに習熟したものでなければ戦いで使用など出来ないはずだ。それをあのように。 「血が、血が止まりません」 かすれた声で末永が言う。 取り乱した人間を見ると、周りは逆に落ち着くというが――苫米地は苦笑する。 「大丈夫だ、流れている血はキミのじゃない」 「そんな」 「この状況はおかしい。何かがおかしい。このゲームには、チーム全員が突然巻き込まれたのか? みんな何も知らなかったのか?」 ……違う。 …………チームの中には『あちら側』の人間がいるはずだ。 ………………このゲームに慣れている誰かが。 …………………………そして、それは……………………………… 苫米地の右手にずっと握られていた硬球が転がり落ちる。 「――苫米地さん?」 末永の呼びかけに、静寂だけが答えた。 54番・苫米地鉄人 死亡 【残り46人】 |