バトル・ロワイアル

第12話『愚者の行進2』


 二人の男は、共に一夜を明かした。と言うと妙な雰囲気を醸し出してしまうが、もちろんある一部の婦女子が考えているようなことは、何も起こっていない。ただ、二人とも下半身の一部が濡れてしまっていた。と言うと、さらに妄想を暴走させる人がいるかもしれないが、もちろんそんなことは起こってはいない。ただ単に、寝る場所を選ばずに野宿したら夜露でズボンが濡れてしまったというだけの話だ。

「おい、遠藤。なに一人でぶつぶつ言ってるんだ」
「何でもない」
 遠藤は微笑み、独白を止めた。
 訝しげな顔を見せながら、新井は問う。
「これからどうするにょろ?」
「あ、ガララニョロロ」
「本官には銃がないにょろよ」新井はスプーンを見せた。
「オレも持ってないなぁ」遠藤はハリセンを取り出した。
 もし誰かが襲ってきたらどうすればいいのだろう、二人はため息をついた。
 とりあえず金本さんと合流しよう、あの人は頼りになる、それに自分たちを捨て駒にしたりはしないだろう、あの人が敵味方見境なく破壊の限りをつくすとき巻き込まれないように気をつけていれば大丈夫だ。新井はそう思った。
「……そうかなぁ?」
 遠藤はかすかに首をひねった。

 ボーっとしていても仕方がない、ということで、二人は歩き始めた。
 既に陽は高くなっている。

「ややっ、不審な影を発見したにょろ」

 いい加減その語尾やめろ、と言いながら遠藤は新井の指差す方向を見やる。
 そこには、青い塊が蠢いていた。
 塊? 否、アレは――。

「あれはスライリーですね」

「わぁ!」
「わぁ!」

 突然うしろから落ち着いた低い声がしたので二人は驚いた。
 そこに佇んでいたのは、60番・田村恵。同い年なのに何故か敬語だ。
 緊張した二人の空気を読んだかのように、田村恵は唇の右端を上げた。
「やる気はないですから、そんな緊張しなくても大丈夫ですよ」
「なんだ、それは嬉しいにょろ」警戒を解き新井は笑った。
 お前素直に信じ過ぎ、と遠藤は思ったが何も言わなかった。

「それにしても」田村恵は腕を組む。「なんでスライリーがこんなところへ」
「中に入ってる人も大変にょろよ」
 新井はうんうんと頷いた。
「え、何を言ってるんです。あれはああいう生き物ですよ」
「なに?」新井が首を傾げる。
「だから、あれはスライリーって生き物なんですってば」
 あれを着ぐるみだと思っている人が多いがそうではない。スライリーとは実は固有名詞でもない。種族名と言ってもいい。とある島からカープ球団が捕獲してきて鞭でびしばしと叩いて働かせているのだ。家族のため、一族のために、スライリーは涙を笑顔で隠し、異国の地でユーモアを振りまいているのである。田村恵は説明した。
「そ、そうだったのか」
 新井は感銘を受けたような素振りで頭を抱えた。
 だからお前素直に信じ過ぎ、と遠藤は別の意味で頭を抱えた。

 そのとき、スライリーがこちらに気付いて振り向いた。
「フゴー!」
 彼(彼女?)の眉は吊りあがって怒りを示している。
「フゴー! フゴー!」
 鼻からは赤く長い何かが伸びたり縮んだりしていた。
「ふごー、ふごー」
「新井、無理だ、それは言葉ではない」

「フゴーーー!!!」

 スライリーがこちらに向かって突進をしてきた。
 その巨体の迫力たるや尋常ではない。
 清原さんにぶつけた方がまだマシだろうな。遠藤は思った。
「ふごごごごご」
 新井が身構えた。
「まさか、迎え撃つつもりか新井!?」
 遠藤の叫びに振り向き、新井はニヤリと笑う。そして、気を高め始めた。
「はっ、これは闘気!」

「うおー」
「フゴゴー!」

 新井とスライリーの身体が交錯したその刹那、光が弾けた。
 遠藤は思わず目をつぶる。

 炸裂音。

 静寂が戻り、遠藤は目を開ける。
 ――誰もいない。
 きょろきょろと見回すと、遠方にものすごい勢いで走り去るスライリーの姿が見えた。新井は少し離れた地に突っ伏し、ぴくぴくと痙攣していた。

「お前は何がやりたいんだっ」
 遠藤は呆れながらも慌てて新井の側に寄り膝をつく。
「ううう」
「新井!」
「遠藤、お前といた数時間わるくなかったにょろよ」
「なにを」
「死ぬなよ、遠藤」
 がくっ、新井は気絶した。
「ピッコロさん! ピッコロさーん!」
 遠藤は泣いた。

 少し離れた場所で、その光景を田村恵が見守っていた。打撲で全治三日ってとこかな、まぁ新井は丈夫だからすぐ動けるようになるだろう、彼はそう冷静に判断する。
 手元のレーダーを見る。
 田村恵に支給された武器は、周囲のどこに人間がいるかを表示してくれるレーダーだった。彼は、これで二人を見つけたのだ。三つの光点が固まっている場所から勢いよく離れていく光点が一つ。これがスライリーだろう。そして、側にもう一つの光点があった。
 誰かが、近くに潜んでいる。
 田村恵はドラゴンボールごっこを早く止めさせて相談しなくちゃな、と普通に思ったのだった。

 それにしても、スライリーって何なんだろう。
 その疑問だけが、田村恵の脳裏にひっかかっていた。


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