バトル・ロワイアル

第11話『イエスタデイをうたって』


 太陽が位置を変え、正午が近いことを告げている。
 気温は高くない。
 山の中腹にある神社は、木々に囲まれ静謐な空気に包まれていた。

 境内へとつながる階段を駆け上がる男が一人。
 0番・木村拓也。
 上りきると、彼は両膝に両手をつき、ハァハァと荒い息を何度も吐いた。
 天を見上げ、空気を胸いっぱいに吸い込む。
 境内の一角に、デイパックが置かれている。彼はその中から一本のペットボトルを取り出し少し口につけ、また中に戻す。そして横に置かれていた木の棒を手にとった。片側が削られて細くなり、布が巻かれている。

 木村拓也は棒を振り回し始めた。
 野球のスイングの態勢で。
 素振りをはじめた。
 境内には、鳥の鳴き声と木の棒が風を切る音だけが響く。

 単純な動作を、幾度となく繰り返す。彼の身体から汗が滲み出し、そのうち幾筋かの流れが地面へと落ちた。
 どれほどの時間が経っただろうか。
 素振りを止めると、木村拓也は側に誰かが佇んでいることに気付いた。
「……ああ、東出か。いつからいたんだ」
 微笑を浮かべ、訊ねる。
「拓也さんこそ、何をやってるんですか」
「見りゃ分かるだろ。素振りだよ」
 何を当たり前のことを、とあきれた口調で木村拓也は苦笑した。
「こんなときに、ですか?」
「こんなときだからだよ」拓也は支給された武器サバイバルナイフで自作したバットを掲げる。「何かをしていたいってとき、俺にはこれしかないから」
 そして彼はまた素振りをはじめた。
 何度か風を切ったとき、島へ雑音混じりの声が響いた。

「みんな頑張っとるかー?」
 大下の声。
「正午の定時放送の時間じゃ。死んだ順番に名前言うからチェックしとけよー。34番・田中由基、53番・林昌樹、4番・兵動秀治、以上三名。ペースが落ちとるぞ。お前らホントに朝弱いのぉ」
 呆れたような口調。
「まぁ、これからが本番。それじゃあの」
 プツン、と放送は途切れた。

 素振りをやめ、聞き入っていた木村拓也がふと気付く。
 目の前にいた東出が、黒い銃口をこちらに向けている。
 それを見て、拓也はフッと笑い、素振りを再開した。
「三人殺しました」
「そうか」素振りの合間に答える。
「誰も信用出来ないですから」東出はうつむき、顔を上げる。「ぼくたちの中には敵――主催者の息の掛かった人間が潜入しています」
 そうでなければ、今回のゲームの条件で殺し合いは始まらない。寄り集まり、味方と思っていた人間に裏切られるより、全員敵だと割り切って一人戦った方が生存確率は高い。東出はそう判断していた。
「そうかもしれないな」
 東出に応えながら、拓也は素振りを続ける。
「拓也さんは、戦わないんですか?」
「俺はさ、みんなのこと好きだから」やや照れたようにうつむく。「それにさ、よく分からないんだ。こんな状況に追い込まれたのは何故なのか。何で殺しあわなきゃいけないのか。分からないのに戦えない」
「……」
「だから、とりあえず身体を動かしてる」
 しばらく。
 境内に会話は途絶え、素振りの音だけが空気を満たした。
「拓也さん」
 つぶやくように、東出が口を開く。
「ぼくと拓也さん、どっちが背が高かったんでしょうね」
「そりゃあ」
 木村拓也は笑顔を浮かべ、そして






 ダァァァン

 山の中からくぐもったような銃声が響いたのを耳にし、64番・井生崇光は身を伏せた。鳥居の向こう側に階段が続いている。あの上で、誰かが発砲したのだろうか。本当のことを言えば、方向は分からなかった井生だが、何となく、そんな気がした。
 息を潜める。
 逃げなくてはいけない。敵意をもった誰かに遭遇したら、自分にはなす術がない。支給されたナベのフタを忌々しげに見つめる井生だ。

 誰かが下りてくる。
(あれは――東出?)
 悄然とした面持ちだった。あの様子だと打たれたのは東出ではない。ということは、自然に発砲したのは東出という結論になる。木の後ろに身を隠した彼は念じる。
(こっちに来るなこっちに来るなこっちに来るなこっちに来るな!)
 祈りが通じたのか、東出は井生とは逆の方向へと走り去った。
 息をつく。
 自分は運がいい。
 数分、彼は息を潜め、周囲に誰もいなくなったと確信してから移動を開始する。高台にある神社。あそこで何かがあった。もしかしたら死体があるかもしれないが――「ゲームに乗った」らしい東出が再び境内に姿を見せる確率は低いはずだ。
 井生はそう判断し、鳥居へと向かった。
 階段を見上げる。
 あの上で、銃声が鳴ったんだ。

 ダァァァン!!

 そう、こんな風に――。

 耳の後ろでさきほどより大きな銃声が響いた。
 そう感じると同時に井生の身体は前に弾け、地面と衝突する。それ以上思考を巡らすこともなく彼の脳は機能を停止した。

 背後から井生を狙撃した東出は。
 転げ落ちたナベのフタを見やると、無言で森の中へ姿を消した。


【残り53人】






0 木村拓也 00 嶋重宣 01 前田智徳 02 東出輝裕
04 兵動秀治 05 町田康嗣郎 06 浅井樹 07 野村謙二郎
09 緒方孝市 10 金本知憲 11 横松寿一 12 河野昌人
13 菊地原毅 14 澤崎俊和 15 黒田博樹 16 山内泰幸
17 鶴田泰 18 佐々岡真司 19 長谷川昌幸 21 遠藤竜志
22 高橋建 23 横山竜士 24 河内貴哉 25 新井貴浩
26 広瀬純 27 木村一喜 28 瀬戸輝信 29 小林幹英
30 玉木重雄 31 小畑幸司 32 西山秀二 33 ロペス
34 田中由基 35 松本奉文 36 佐竹健太 37 岡上和典
38 朝山東洋 39 小山田保裕 40 倉義和 41 森笠繁
42 ラド 43 ヤング 44 福地寿樹 45 シュール
46 山崎健 47 島崎毅 48 佐藤康幸 49 ディアス
50 栗原健太 51 末永真史 52 玉山健太 53 林昌樹
54 苫米地鉄人 55 福良徹 56 田村彰啓 57 甲斐雅人
58 長崎元 59 佐藤裕幸 60 田村恵 61 伊与田一範
63 鈴衛佑規 64 井生崇光 65 石橋尚登 66 矢野修平
67 酒井大輔 68 広池浩司 70 ブリトー 無 山根雅仁
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