|
「ひょえー」 どこか間抜けな声をあげて、また一つの影が地に伏した。 ピクピクと痙攣し、数分後完全に活動を停止する。 見通しの良い場所へ移動して三つのデイパックを漁りながら、高橋建は思考を巡らせた。 朝の定時放送。 死者の数が多い。「自分のような種類」の人間が殺したのだろうか。それとも、ゲームの乗ったやつが出てきたのだろうか。分からない。 ともかく。 意識に浮上しようともがく理性を懸命に押し込め、言い聞かせるように呟く。 自分がゲームの勝者となる。 それ以外に、彼が選べる道はなかった。 4番・兵動秀治、34番・田中由基、53番・林昌樹が愉快な格好で倒れている様を見ながら、高橋建は決意を新たにする。もはや自分の手は血で染められている。今更――そう、今更、善人にもどることなど出来ない。 突如。 高橋建は身を翻しデザートイーグルを草むらへと向けた。 「あーっと、ごめんなさい、撃たないでくださいよー」 呑気な声が林の空気を揺らし、一人の男が姿を現した。 「……山根?」意外そうな口調で高橋建が呟く。 「はいはい、そうです、山根です」 それは、既に現役を引退しスコアラーに転身している山根雅仁であった。 高橋建は困惑する。選手でない山根が何故ここにいるのか、球団スタッフも無差別にゲームに参加させられているとでも言うのだろうか。 しかし、すぐに気付く。 「なるほどな」高橋建の口調に侮蔑の色がにじんだ。「お目付け役、というわけだ」 「いやー、そんな、ただの連絡係ですよ」 山根は微笑を浮かべ、楽しそうに両手をひらひらと振った。 「高橋さんはこれで……七人ですか。優秀で、大下さんも喜んでおられます。――って、ですから、僕は参加者じゃないんですからこっちに銃口向けないで下さいってば。そんな狂ったような威力のある銃を向けられたら怖いですよぉ」 全く恐怖を感じていない様子で山根が笑う。 高橋建は、表情を消して微動だにしない。 「ああ、そうだ、『ジョーカー』が一人消えましたよ」 「……」 「ちなみにジョーカーっていうのはですねぇ」 「分かっている」 自分と同じ種類の人間だろう? 高橋建は吐き捨てた。 「まぁ、同じと言えば同じですねぇ」山根はくるくると瞳を動かす。「高橋さんはこんなに頑張ってるっていうのに。全く、最近の若いもんは根性がなくていけません」 「誰だ」 「うーん、まぁ、死んじゃった人だから教えてもかまわないか。木村一喜ですよ」 高橋建は右の眉を上げた。あいつも――か。目を伏せ、黙祷を捧げようとして、止める。 「お前たち、何人この中に仕込んでるんだ」 操り人形を。高橋建は怒りを含んだ口調でそう問いただした。 「それはですねぇ」 山根は、楽しそうに笑顔を浮かべ、右の人差し指を一本立てて唇に当て、 「ヒミツです」 と左目を閉じた。 「……」 「いやだなぁ、高橋さん、黙らないで下さいよ。大の大人が気持ち悪いんじゃー、とか突っ込んでくれないと」 へらへらと笑う山根を前にして、高橋建の人差し指に力がこもる。 それを知覚しながらも、山根は恐怖のかけらも見せはしなかった。絶対に撃つことはない。そう確信しているかのように。 事実、山根はそう信じていた――いや、知っていた。 「ああ、忘れてた」 「……」 「十人やったら電話で話させてやってもいい、と大下さんが言っておられましたよ」 真面目な表情で、丁寧に、山根は報せた。 高橋建は無言で、物騒な光を放つ視線を山根に向け、姿を消した。 「……まったく、因果な商売ですね」 山根は一人、地に伏している選手を見ながらそう呟いた。共に三次元動作解析装置でレベルアップを図った選手と同じ顔が、そこにある。 ため息をつきながら、山根は携帯電話を取り出して「主催者」へ報告をはじめた。 【残り55人】 |