|
51番・末永真史は月明かりが周囲を照らす中、ようやく林を抜け海岸沿いに出たところだった。 狭い砂浜。 そこで末永は目を凝らして周囲を見渡した。 ここに、いるはずなのだ、仲間たちが。 「前田さん――」 廃校の教室で、尊敬する選手が大下に呼ばれて立ち上がるとき呟いた言葉。それを、末永は思い起こす。 「最南端」 前田は、そうぼそりと呟いたのだ。 俺はそこにいる――前田さんはそう意思表示したのに違いない、と周囲にいた人間は思った。私語をするとナイフが飛んでくるので相談は出来なかったが、幾人かと顔を見合わせて頷きあったものである。 前田さんがいて、手足となって働く人間がいれば、必ず脱出できる。あのイカレたやつらに反撃できる。そう、末永は信じていた。なぜなら、前田智徳は天才なのだから。 サブマシンガンMP5を握る右手に力が入る。 地図で確認すると、この島の最南端はとても分かりやすい場所だった。そこには、灯台が建てられていたのだ。そこへ行けば、すぐに合流できるだろう。自らに支給された武器の使用法を説明書で確認していてやや遅れたかもしれないが、取り返しにつかない時間ではないはずだ。 あれだ……! 灯台が見えた。 走る。 もう一度林を抜けなければならないようだった。誰かが潜んでいるかもしれず、危険はやや増していたのだが、それを気にする風もなく、末永はわき目もふらず、灯台へ向かって疾走した。 林を抜けるとすぐに灯台が目の前に現われた。 ここだ、と思いさらにスピードを上げようとした時。 「末永」 右のほうから突然声がかかった。 反射的に銃口をそちらへ向け――、数瞬の後、末永はフウっとため息を漏らした。 「前田さん――」 いた。 自らを率いてくれる人物。 ボスが。 そこにいた。 安心して、末永は銃口を下へ向けた。 「良かった、もしかしてぼくが」 一番乗りですか、と問いかけようとして、ふと気づいた。 前田の足元に二つの塊が転がっていることに。 暗闇に目をこらすと、その塊が人間であり、さらに50番・栗原健太と58番・長崎元の二人であることがわかった。 寝ているのか? 末永はそう思った。いや、思いたかった。 しかし。 そうではないことはすぐに分かった。栗原も長崎も、首から黒い「何か」が出ていたからだ。そして、前田は何か細長い棒のようなものを右手に握っていた。 背筋が凍る。 何が――これは、一体何が――。 「南の端が分かりやすい場所で良かった」 前田は、いつもと変わらぬ冷静な、ともすれば不機嫌そうにも見える顔で呟いた。しかしそれは仏頂面に見えるだけなのだ。 末永は知っている、他人を遠ざけてしまう雰囲気をもつ前田という男が、実は他人を思いやる後輩思いの優しい(前田はこう言うと憮然としていたが)人であることを。 そう、知っているつもりだった。 「そ、そ、そ」 自分でも声が震えているのが分かる。 「それは、一体?」 「ああ、これか」 前田は下も見下ろさず、末永を見つめたまま答える。 「栗原と、長崎だよ。二人とも、オレを殺そうとしたんでね」 そんな――。 栗原は体が大きくて力が強いだけだったし、長崎は口が大きくホラ話ばかり吹いてるやつだった。この殺し合いに乗るなんて考えられない。しかも、前田さんを狙うなんて。 そう考えていてふと気づく。 「ま、前田さん、ぼくは、そんなこと思ってないです。前田さんを殺そうとするなんて。みんなで一緒に大下ってやつをぶっつぶす、そう考えてここまで来たんですよ」 しどろもどろだったが、末永は一気に言い切った。 「そうか、末永は、そう思ってるのか」 「え」 沈黙。 聞こえてくるのは、波が海岸に打ち寄せる音だけ。 ほんの数秒の間だけだったが、末永には永遠にも感じた。 「オレは」 前田が口を開く。 「どっちでも良かったんだ」 「な、何がですか」 「いつもそうだ。どうすれば良いのか、何が正しいのか、オレは分からないんだ」 前田は末永の言葉を無視して続けた。 「だから、この場所についたときオレはコインを投げた。表が出たら、大下たちと戦う。裏が出たら――」 そんな、そんなバカなことが。 違う。 前田さんが、そんなことをするわけがない。これは何かの間違い――違うんだ、そう、これは――。 前田の目が光った。 獲物を見つけた肉食獣のように。 「このゲームに乗ると」 前田の左腕が閃く。 末永の握る銃口は下を向いたまま、上がらなかった。 前田の投げた軍用ナイフ。 それは人間ののどを的確に捉え。 そして。 命を奪った。 【残り58人】 |