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横松は混乱していた。 何なんだ。一体何がどうしたって言うんだ。まだカープに入団して一年とたっていないのに、自分はどういう事態に巻き込まれてしまってるんだ。 走る。 とにかく、逃げなければ。 何処へ、と言うことは考えない。考えられない。とにかく、あの大下と言う人間から出来るだけ離れたい。それだけが頭の中に浮かんでいた。額にナイフをつきたてて死んだ先輩。その姿が瞳に焼き付いていた。 「はぁ、はぁ」 山道。 月明かりだけが頼りである。時々木の根に躓きそうになりながら、横松は駆け上がる。と、そのとき。 「わ」 ズダン。 こけてしまった。フクロが投げ出されたが、幸い中身が散乱したりはしなかった。 「ちくしょう」 すぐにフクロを拾い、駆け出そうとする。 その時。 ふと、自分がつまづいてしまった物体が目に入った。 木の根、ではなかった。 それは――人間。 首筋に細い棒が突き立っている、人間。 「わ、わ、わ」 思わずしりもちをつき、あとずさる横松。 見覚えのある顔。 「あ、浅井……さん?」 返事はなかった。 死んでいる。 体を震わせながら、しりもちをついたまま、浅井の死体から離れようとする横松の手に、何かヌルリとした感触がはしった。 「ひっ……」 それも、人。 まだ、生暖かさを残した、人間。 しかし、死んでいた。 「ま、ま、町田さんも」 どういうことだよ、どういうことだよこれ! 横松の混乱は頂点に達していた。 さっき、自分の少し前に出て行ったばかりの町田、浅井の両先輩が既に死体となって目の前にある。しばらく呆然とした横松だったが、すぐに理解をした。 待ち伏せ。 出てくる人間をこの道で待ち伏せして殺した人間がいるのだ。 すぐに、ここを、離れなければ。 自分も殺される。 殺されてしまう! 慌てて駆け出そうとして振り返った横松の視界に、人影が映った。 その瞬間、自分ののどに衝撃がきた。 痛くはなかった。ただ、熱い。のどが、焼け付くように熱い。 何だよこれ、と喋ろうとしたが、出てくるのはゴプッと言う何かがあふれ出る音だけだ。 のどに手をやる。 ヌルッとした感触。さきほども感じたその感触。 血? 俺の血? 何だよこれ、熱いよ、一体何が起きてるんだよ。 ……わからないよ……。 疑問だけを黄泉への土産にして、横松は地に伏し絶命した。 人影が倒れている三人に近寄り、死亡を確認すると自分が使用したボウガンの矢の回収を始めた。彼らのふところもまさぐり、何もないことを確認してから落ちているフクロを奪って森の中へと移動を始めた。 「三人。まずまずの成果だ」 その人影――東出輝裕は、この場ではここら辺が潮時だろう、と判断する。これ以上の待ち伏せは、別のルートから廃校を出た人間に自分が狙われる危険を増大させるだけ。三人殺って物資を調達できたことで満足せねばならないだろう。 東出はフクロを四つかついで森の中へと入る。 彼はこの場所で、自分に支給された武器ボウガン(簡単に言うと、ライフルと矢を組み合わせたもの)を使用して待ち伏せを行った。 彼が廃校を出るとき気がかりだったのは、自分よりも早く出発したものが待ち伏せをしていないか、と言うことだった。しかしその辺りは「主催者」も考えており、廃校から出るルートはいくつも用意されていたのだ。もし前田智徳が出たルートにかちあったら、と思うと東出は気が気ではなかったが、どうやら杞憂に終わったようである。 そしてこの待ち伏せでたまたま自分と同じルートを採った三人を全てしとめた。 「しかし」 東出は苦笑を浮かべる。 「町田さんと浅井さん、こんなところでも二人一緒でしたね」 可笑しそうに、彼は呟いた。 東出はゲームに乗った。 ――と言うよりも――。 乗らざるを得なかった。 彼が大下にした質問への答え。 制限時間と地域の限定、それはすなわち「殺し合いを速やかに進行させるため」に不可欠な条件だ。そうでなければ、そうそうチームメイト同士殺し合いなど出来るわけがない。皆で集まって何らかの作戦を立てようとするに決まっている。 しかし大下は「しない」と言った。 そんなことをしなくても殺し合いは始まると大下たちは考えている。それはつまり――。 「誰も信用できない」 ならば、全員殺して自分を助ける。 東出は他人の三つのフクロの中身へ思いを馳せながら、闇へと消えた。 【残り65人】 |