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「昨日は1並びの日でしたよね」
後輩にそう言われて、オレは愕然とした。
オレは悲哀の海に腰まで浸かりながら、何故昨日言ってくれなかったのだ、これは一日ずれるだけで意味をなくすのだ、教えなかったのは何かの陰謀か、クーデターでも起こすのか、くそー、帝国の手先め、と涙ながらに後輩に訴えた。 「私も忘れてたんで」 何故覚えておいてオレに教えないのだ、この忘却大臣、貴様の義務と責務をもう一度心に問い直してみろ、と言おうと思ったが、それだとあまりに狭量なのでやめておいた。オレの心はケイロニア皇女シルヴィアを包み込めるくらい暖かく、深いのだ。 「後輩、そう言えば、こういう日付の数字並びを装飾にしたミステリィがなかったか」 「ああ、ありましたね。森博嗣センセのやつでしょ」 そうだ、「黒猫の三角」ってやつだ。クロネッカのデルタだ。何てネーミングセンスの凄まじさだ。前にも「数奇にして模型」と言うのがあったが、好きにしてもオッケー、をもじったものだと書いていた。センセの頭は吉本系だ。 あの話のように、昨日殺人が起こらなかったのは僥倖と言うべきだろう。世界は広く、どこかで起こってはいるだろうが、少なくとも我が校でそんな話は聞かない。幸せな日だった。そう口に出すと、 「ホント、幸運でしたよね。先輩が覚えていたら、なんかヤッたかもしれませんし」 何て事を言うヤツだ、オレはゴキブリ以外なら虫けらでも愛せる男だ、オレの部屋ではネズミだってすくすく成長しているぞ、犯罪などするわけがないではないか、と鋼鉄のハンマーで後輩の頭を滅多打ちにしながら言った、というのは嘘で、「オレは殺人などしないよ」とニヒルな笑いを返してやった。
殺人を犯すなら、完全犯罪が出来なければオレは実行しない。 三段論法を使って後輩に説明したが、「前提が間違ってます」と言い返された。論理というものを知ってるヤツとは話しにくい、と思いながら、オレは帰宅の途についた。 |