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文楽ト云フ事

第3回 赤川次郎『死者の学園祭』(角川文庫)

■作品紹介:

 三人の女子高生は狂喜した。好奇心と冒険心の強い年頃の彼女たちにとって、立ち入り禁止の教室を黙って探検するのはたとえようもないスリルなのだ。だが、彼女たちは気づかなかった。彼女たちの背後の冷酷な視線に……。そして、一人一人彼女たちはこの世から姿を消した――。
 学園に忍び寄る恐怖の影! 「絵と宝石」に隠された謎とは?
 可愛らしく好奇心の旺盛な17歳の名探偵真知子を主人公に、学園の友情、愛、青春を描くサスペンスミステリー。(角川文庫・あらすじより)


 校舎四階のベランダの手すりの上を軽やかに歩くクラスメイト。

「落ちたらどうするの! 降りて! 降りるのよ、由子!」
「分かったわよ」

 少女は手すりから降りた。手すりの外側へ。

 そんなプロローグから始まる本作品。
 このクラスメイトの死。さらに転校した先では三人の級友が次々と謎の死を遂げる。不可解な事件。警察にやる気がないなら私がやる、と捜査活動を開始する主人公・真知子。
 いわゆる青春ミステリってやつでしょうか。少年少女が主人公となって事件に絡んでいく、という。中高生向けとして無条件にお勧めできる小説ですね。この年代の人は主人公が同年代だと喜ぶので(私もそうでしたし)。
 多作作家として有名な赤川次郎の長編第一作。それだけに力が入ってます。というか、これほどの作品が書けたから有名になったんでしょう。


■作品の感想:

 プロローグの描かれ方が良いです。五月の黄昏時の教室。誰もが思い浮かべることが出来る情景。郷愁を感じるとでも言うのでしょうかね。その黄昏時に見たクラスメイトの転落死。幻想的と言ってはなんですが、引き込まれる導入部です。
(それだけに、深田恭子主演の映画でのここのシーンはは……)
 とりあえず読みやすいです。赤川次郎らしいテンポのある文章。会話によって自然と状況設定が読者の頭に入ってきます。文章の重厚さを求める人にはウケが悪いでしょうが、軽く一冊小説を読みたい、って時には最適ですね。
 色々な設定は「よくあるパターン」の一言で説明出来そうなくらいですが、それだけにミステリィ入門編としては最適。見事なのは視点のとりかた。真知子を通して事件を見ることでラストの展開がよりスリリングに感じられました。ワトスンの一人称と同じと言えば同じなんですけどね。

(以下ネタバレです。2000年公開の映画話もあり)
 この作品の特筆すべきところ、そして好きなところは、主人公の真知子が結局のところ傍観者だったところにあります。こういう少年少女が主人公のミステリィらしく、主人公は動き回ります、事件の何かを掴むために。でも色々情報の断片は入ってくるけど全貌を掴むには至らない真知子。
 そこへ来ての、最後の演劇。犯人の指摘。周りの近しい人間から何も知らされず、最後の最後で突きつけられる「自分ひとりだけが蚊帳の外だった」と言う真実。この構成にこそ、この『死者の学園祭』が傑作たる所以があります。あると思います。多分。

 だからこそ、だからこそ深田恭子主演の映画は駄作でした。このアイドルを主人公にしたからには一番目立たなくてはいけない、とでも思ったのでしょうか、全てをこの深田に任せてしまいました。劇での犯人指摘までも。映画では犯人も何も違うから良いのか、と言うとそうではないでしょう。何のための原作なのかこれでは分かりません。


■名科白集:

真知子、ねえ、真知子。――ここよ、ここよ!

倉林先生、この辞表は破っても構いませんね?

死ぬより怖いのはね――希望を失って生きることだ。それより悪いのは、自分自身を浪費していると知りながら生きることだよ。

――みんな若くて、夢があった。未来があった。一番いい時に死んだんだ。一番幸せな時に死なせてやった。感謝して欲しいくらいだよ。

みんな信じられない。みんあが、嘘をついて、陰で舌を出しているんだ。真知子は、むしょうに悲しくなった。

(ややネタバレ反転:何ておめでたい、世間知らずだったんだろう。自分以外はみんな、真実を知っていたのだ。父も母も、英人も、幸枝も……。ただ一人、自分だけが知らずに、探偵気取りで、ああでもないこうでもないと頭を悩ませていたなんて。まるでピエロだ! 本当に笑わせる!

■名場面:

 ◆起きたら自分の部屋のベッドで眠っていた場面。
 ◆劇『死者の学園祭』
 ◆探偵ごっこの終わり

■登場人物紹介:

・結城真知子
 本編の主人公。▼端整な顔立ち。▼気さくで人を打ち解けさせるのが特技。▼一般の人のヒロインのイメージを壊さないヒロイン。

・結城正造
 真知子の父。▼四十五歳の男盛り。▼沈着冷静、泰然自若という四字熟語が似合いそう。▼温和でもあり、若者の理想の父親像を体現したような存在。

・結城恵子
 真知子の母。▼下町気質丸出しの生活派。▼ダイエット中。

・長池幸枝
 真知子の転校先の学園の生徒。最初の友人になる。▼体型を保つため毎朝ランニングを行っている。▼

・倉林先生
 モテモテ男子教師。▼女生徒の憧れの視線を一身に受ける。▼イヤミのない性格、というところがまたイヤミで良い。

・神山英人
 不良に囲まれた真知子を助ける、と言うベタな登場の仕方をする。▼W大学経済学部三年。▼「キミは誰だ!?」「神山英人。探偵さ」などと言う会話はない。