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文楽ト云フ事 第1回 西澤保彦『七回死んだ男』(講談社文庫) ■作品紹介: どうしても殺人が防げない!? 不思議な時間の「反復落し穴」で、甦る度に、また殺されてしまう、渕上零治郎老人──。「落し穴」を唯一認識できる孫の久太郎少年は、祖父を救うためにあらゆる手を尽くす。孤軍奮闘の末、少年が思い付いた解決策とは? 時空の不条理を核にした、本格長編パズラー。(講談社文庫・裏表紙より) 死者が復活する装置、人格が入れ替わる装置など、SF的シチュエーションを導入して推理ものをやってしまう、そんな作風の作家・西澤保彦氏の名作。おそらく氏の作品の中でも一番の人気(万人受けする作品)。 同じ日を九度繰り返す、そんな体質を持つ久太郎少年の物語。いわゆるタイムスリップものの一つと言って良いと思う。久太郎の行動一つで変わっていく未来。どの選択が正しいのか、どうしたら祖父が死なずに済むのか、それとも何をしても最終的な結末は変わらないのか? K・グリムウッドの『リプレイ』を思い出す人もいるかもしれないが、結末まで読めば単なる焼き直しではないことが分かることでしょう。 ■名科白集: だから無かったんだ。赤の折り紙が。 さ。ズボンを上げて。いい子にして。 真面目な話。結構じゃないの。キュータローは真面目に求愛してるわけだ。決して身体だけが目当てじゃないんだと。お。これって洒落になっとるな。キュータローがキューアイと。 何しろベストセラーを八年遅れて読む人間ですから。世の中のテンポにはついていけません。 阿呆。男が女に優しくするなんてだな。やらせて貰うために決まってるだろうが。カマトトぶるんじゃない。 同じショッキングなことを知らされても条件や状況が違うと人間の反応も変わってくるらしい。 だから僕は多少気が咎めながらも自画自賛するしかない。よくやったぞと。自己満足に浸らないと誰も褒めてくれない。 架空の設定をよりリアルにするために意図的に矛盾を混ぜ込むというのは詐欺の常套手段なのだから。 死んでいたんです。ヒサタロウさんは。 ■名場面: ◆久太郎が友理さんと槌矢さんの会話でショックを受ける場面。 ◆螺旋を抜けるとき。 ■登場人物紹介: ・大庭久太郎 同じ日を九度繰り返す「反復落とし穴」という厄介な体質を持つ高校一年生。▼体質のおかげでひどく世の中を諦観して見る癖が。そのせいかひどく老成して見える少年。▼大学卒業間際だと間違えられた。▼友理さんに憧れを抱いている。▼ヒサタロウとちゃんと名前を呼んでくれる人がいない。皆キュータローと呼ぶ。中には「オバキューだ!」と喜ぶ年輩者も。 ・渕上零治郎 エッジアップ・レストラン・チェーングループの会長。死人役。▼後継者問題で一族を弄ぶお茶目なジジィ。▼酒好き。 ・友理絵美 久太郎の叔母・胡留乃の秘書。理知的な女性。▼愛想が良いのか悪いのか、美人なのか不美人なのか境界を曖昧にし、ニュートラルな状態を保てる女性。▼年齢はハッキリしないが、23、4だと思われる。 ■作品の感想: 本格推理と呼ばれる小説を敬遠する人は結構多い。トリックがどうしたとか、時間的に犯行が無理だとか、こうこうした乗り換えをすれば実は早く着けたのだとか、面倒な設定を楽しめない人も多いからだろう。実際の所、私も細かな物理的トリックというのは好きではない(もちろん時刻表も)。密室が存在したとしても「まぁどうにかして出来たんだろうな」と読み流してしまうのだ。そして読後も犯人や登場キャラの心情は覚えていてもトリックなどの仕掛け関連はまったく記憶にない、ってことも多い。 しかし時々、そんな人間に対しても強烈にアピールしてくる「仕掛け」と言うものは存在するのだ。ちまちました作業を苦労して読むこともなく、最後になって全ての謎が明らかにされる。そんな非常にスマートなミステリィ作品の一つが、この『七回死んだ男』なのである。 (ネタバレ反転) いや、正直これほど読みやすいと言うか分かりやすい推理ものってのも珍しいですね。久太郎が名前の呼び方を友理さんに教えたとき、ああこれって伏線なのかな、と思ったんですけど、あまり意味なかったですね。まぁ久太郎が気付いて自分の体質についてぶちまけるきっかけになったって意味では、確かに伏線ではありますが。 トリックについては全く解りませんでした。勝手に死んだのであって、親族の誰かしらが殺していってるんじゃないだろう、とは考えまして、何か偽装工作やってんだろ、とは思ってましたが。うーん、まさか一日ずれていたとは。素晴らしいです。こんな読み飛ばしするような人間でも「一月四日です」の一言でアッと思わされました。もちろんその一言で細かなところまで分かったってわけじゃないけど、ある一つの大きな謎が解けたことが理解出来ました。素晴らしい。 まぁ、何はともあれ気になるのは久太郎と友理さんの今後ですね。上手くいったと信じたい。年の差カップルって好きです。 |